2015/05/20

『エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち』を読んで

『エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち』
須藤みか著
2010年発行

この本を手にとったとき、わたしはこれから体外受精を受ける患者としてエンブリオロジストについて知りたいと思っていた。
そして確かにエンブリオロジストについて知識を得ることができた。

エンブリオロジストには公的な資格制度がないということや、彼らの約7割は臨床検査技師出身者だということ、どういう心持ちで卵子を扱っているか、彼らが患者にかける言葉がどのくらい患者に影響を及ぼすか、などの具体例を知ることができた。

でも読了後、わたしが一番心に残ったのは著者の治療体験だった。

著者は2ヶ所のクリニックで2年弱の不妊治療を受け、結果が出ないまま42歳で治療をやめた方。
“毎回、女としての偏差値を言い渡されるようだった”との言葉に、わたしも「ほんとそう!」と同意しきり。

そして最後の体外受精を終えたあとの文章にも深く同意した。
わたしも、陰性のたび流産のたび誕生日を迎えるたびに、毎回毎回、「もう止め時なのかもしれない」「やめたい」と思うから著者の気持ちがよくわかった。

引用ここから

さらに治療を続ける気はなかった。心は決まっているのに、どうしても整理がつかなかった。子どもを持ち、育てることだけが人生ではないことなど分かっているのに、だ。治療中はみじめな成績表を突きつけられても、「もしかしたら」という希望を持ち続けることができた。子どもを持てないという現実に、これほど自分自身が打ちのめされるとは想像していなかった。治療を続けていれば、この喪失感は味わわずにすむ。そのために治療を続ける患者もいるかも知れない。

引用おわり。

治療を続けていればこの喪失感を味わわずにすむ。
この言葉はまさにわたしにも当てはまる。

わたしは二人目希望で2年ほど治療を受け3回の流産を経て、まだ出産にたどりつけていない。
妊娠検査薬の反応がないと落ちこむし、胎嚢が見えないと落ちこむし、心拍が止まっていたら落ちこむ。
落ちこむからといって二人目をあきらめることはできない。「もう一人いるんだからいいじゃない」ってことでもない。

患者の言葉として「引っ込みがつかなくなる」というものが紹介されていたが、これも気持ちがよくわかる。

結果が出ないと落ちこむ。
つらい。
やめたい。
流産手術なんかもう絶対に受けたくない。
これから受ける不育検査は高額だし新幹線での通院になるから交通費だけでもかなりの負担になる。
体外受精を何回受けるかもわからないし、金銭的にも痛い。
気持ちも身体も痛い、つらい。
治療、やめようかな……と思う。

でも、治療を続ければ、結果がついてくる“かも”しれない。
この“かも”のために、わたしは続けてしまっている。
「やめたら終わり」「今までの治療をしていた時間とお金はなんだったんだろう」って思ってしまう。


著者は、1965年生まれ。
2007年8月に治療を終え、その後なんと自然妊娠のすえ2008年夏に男児を出産されている。
43歳あたりでの出産。

著者の妊娠出産についてはさらっとしか触れられていない。
しかし治療のつらさや治療断念のときの気持ちを読みながらわたしも悲しく思っていたので、こういう結果が最後に書いてあり、明るい気持ちで本を閉じることができた。
にほんブログ村 不妊(高齢赤ちゃん待ち)

0 件のコメント:

コメントを投稿